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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)11770号 判決 1967年6月28日

原告 安全信用組合

右訴訟代理人弁護士 伊藤利夫

同 足立憲英

被告 川崎昌幸

被告 山谷悦也

右山谷被告の訴訟代理人弁護士 日野魁

主文

被告らは各自原告に対し、金三、〇一〇万円及び内金二、一七〇万円に対する昭和四一年一〇月二八日から、内金八四〇万円に対する昭和四一年一一月一六日からそれぞれ支払ずみまで日歩七銭の割合による金銭の支払をしなければならない。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

1、本件係争の要点は、被告らの抗弁にかかる訴外株式会社東甲(分離前の相被告、以下訴外会社の略称する)に対する原告の昭和四一年一一月二一日になした仮差押執行が不法行為となる程に不当なものであったか否かに帰する。

2、右仮差押執行が原告の申請によってなされたことは原告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきであるが、当裁判所は右執行をもって被告らの抗弁するように不法行為となる程に不当なものとは判断できない。すなわち、

(1)  被告らの主張自体によっても、訴外会社が昭和四一年一一月五日前後頃原告から借り入れた九八〇万円の債務の弁済期は同月一五日であったのに、その弁済期には右支払ができずに同月二一日問題の仮執行がなされたというのであるから、右訴外会社と原告との金融取引約定によって、当時訴外会社が原告に対して負担していた他の合計三六五〇万円に昇る債務についても期限の利益が失われ(右表現を用いた約定の存在及び右債務の存在は被告らの認めるところである)たものとして扱われ、右仮差押執行がなされても、他に特別の事情がないかぎり、原告の右措置を訴外会社において原告の信義則違反として問責すべきいわれのないものである。

原告のような金融機関としては、融資先の債務者が一つの債務について弁済期に約旨による弁済をしないときは、その債務者がたとえ一般的支払停止の状態になくとも、他の長期債務を含む弁済期前の債務について期限の利益を失わせる旨の約定をしておくことは預金者その他の組合員の利益をまもる上で必要かつ当然のことであって、その約定を無効視する理由はなく、さらに仮差押等を活用して権利実行の保全措置をとることも法の予定する当然のことというのほかないからである。

(2) そこで、右仮差押執行措置を不当と断ずべき特別の事情があるかをみるのに、成立に争いのない<証拠省略>訴外会社との融資取引に当った原告組合新宿支店の支店長福永漸は訴外会社に対する融資については平素多大の好意と便宜とを与えて来ており、昭和四〇年四月以降十数回にわたる合計三千数百万円の長短期資金融資においても、必ずしも本店の定める厳格な条件に固執せず、長期設備資金の融資に当っても厳格な担保権設定等をしないで短期資金融資と同様の手形貸付の形態をとり、その手形書換措置で弁済期を事実上延長することを容認して来た程であること、また、前記支店長は訴外会社の前記借入金の元本返済分をその原告に対する定期、不定期の積金または預金に代えさせ、それら預金を右借入金の担保としており、その額は昭和四一年一〇月頃約一、五〇〇万円程になり、その頃訴外会社の資金繰りが困難となるに至って、右積金等が予定どおり行なわれなくなったにもかかわらず強くその積金の履行を促さなかったこと、右新宿支店においては同年一〇月末日四口合計三六五〇万円の訴外会社に対する手形債権について三二日分の利息を受け入れて右日数の弁済期延長を許容したこと、昭和四一年一〇月末から同年一一月初めにかけて訴外会社は他の取引先に対する振出手形等の決済資金に窮し、前記新宿支店長に特に依頼して前記九八〇万円の一時借入れをして同額の手形を原告に宛て振り出し、その早急返済について被告らとともに資金入手に奔走し、最終期限の同月一五日までには現実に資金入手に至らなかったが、その数日後には半額程度の資金入手見込がついていたこと、ところが、その最終期限の間近かになってにわかに原告組合本店からの介入によって弁済の督促が厳しくなり、右の弁済期経過によって、前記仮差押執行が行われ、右一応の入手見込のあった資金も入手不能となったことなどが認められる。

なお、原告の右仮差押執行における執行債権及び被差押物件の明細は明らかではないが、原被告らの前記弁論の内容からすれば、右執行債権には少くとも前記昭和四一年一一月初め貸借成立の九八〇万円の債権が含まれていたこと、その余の前出債権についても期限の利益が失われたものとして扱われ、それらの合計額と原告が訴外会社に対して負担していた前出積金、預金等債務の合計額とを対比すれば、それらを仮りに差引勘定しても原告がなお訴外会社に対し少くとも二、〇〇〇万円以上の貸越勘定となっていたことは、原被告らの各主張及び前認定事実によって明らかである。

以上の状況のもとにおいては、原告が訴外会社に対する前記各債権について別に十分な担保力のある担保を取得していないかぎり、原告が一応万全の保全措置として仮差押措置をしたことをもって、不当な措置とはいえないし、右別途の担保としては、原告が若干の不動産について抵当権設定を受けていた形跡はあるが、右にいう十分な担保力を有していたことの証明はない。

その他に、原告の前記仮差押執行措置を不当と断ずるのに足りる証拠はない。<以下省略>。

<以下省略>

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